前回は、2009年の夏の甲子園決勝戦。新潟県代表の日本文理高校と愛知県代表の中京大中京高校の試合の9回2アウトからの脅威の追い上げシーンについて書きました。
追い詰められても、チーム全体が「まだいける!」という確信を持ち続けていたように僕は感じましたが、これは偶然ではありません。
日本文理の選手達は、バッティングである変わった練習をしていました。
そのバッティングでの体験を一人一人の選手がうまく自信に変えていた。
これが逆境でも自信を持ち続けることのできた秘訣だと僕は考えました。
■一球バッティングという練習法
普段の練習から、日本文理の選手は、一球バッティングという打撃練習をしていたそうです。
一球バッティングとは、フルカウントの場面を想定して1球のストライクを確実にしとめるという練習です。
この練習が土壇場での驚異的な粘りにつながった側面があるように思います。
つまり、その1球バッティングの練習でうまく打てたときの自分の姿をイメージし、各打者はバッターボックスに入っていた。
そのイメージ通りにバットを振ることで土壇場でのヒットを打てたのかもしれません。
■五感をつかうことでイメージを喚起して自信を深める
これは、過去の出来事を思い出して自信を深め、実際の行動で結果を出すというアプローチです。
こういう過去のものをイメージするときは視覚に訴えがちですが、聴覚、体感覚など他の五感にも訴えかけるとより効果的です。
バッターボックスに向かう前の各打者を見るとどうでしょうか。
そのときは、自分の頭の中で過去に一球バッティングでうまく打てたときの情景を思い浮かべ、視覚的に訴えかけることで自信を深めていた選手も当然いたことでしょう。
また、次が自分の打順となると、ベンチの前にあるネクストバッターズサークルに向かいます。
そのときは、たいてい素振りをして準備します。
そのときのバットを振るという行為により、自分が体感覚的に一球バッティングでうまく打てたときのことをイメージしていた選手もいたはずです。
さらに、中には前の打者がヒットを打った時の金属バットの「カキーン」という乾いた打球音で、聴覚的に一球バッティングでうまく打てたときのことをイメージしていた選手もいたかもしれません。
もしくは、これらの3つで複合的に過去の成功体験をイメージしていた選手もいたと想像することも可能です。
自信をもつ、いけるという確信をもつための一つの方法は、過去の成功体験をイメージすること。
そのイメージを視覚だけでなく五感のいろんな部分に訴えかけること。
これを意識的ないし無意識的にやっていたことが、甲子園決勝の9回ツーアウトからの脅威の追い上げにつながったのだと思います。
■過去を振り返るときの注意点
なお、過去を振り返るときには注意点があります。
自信をもつという観点でいうと、過去にアクセスするのはよくないという人もいます。
それは過去を振り返ると、似たような場面での過去の悪い出来事を想像してしまうからです。
ですので、過去を振り返っても、似たような場面でよい出来事をイメージできるようにすることが大事になります。
一球バッティングの例でいえば、過去の練習でしっかり打てる状況まで練習することが必要です。
もし、中途半端な練習をして一球バッティングでうまく打てていなかったとしたら、その悪い過去にアクセスしてしまい、本番でヒットを打つことはできなかったでしょう。
現実には、9回2アウトから打者一巡の攻撃につながりました。
この一球バッティングの練習を1人1人の選手が相当なレベルで徹底的にやっていたこともここから想像できます。
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