1on1ミーティングはマネジメントを効果的にするものとして様々な現場で実践されています。
1on1ミーティングとは、上司が部下の成長支援のために実施する対話です。しかし、せっかく導入しても、現場で機能する組織もあれば、機能しない組織もあります。
私はこの違いとして3つの観点があると考えています。研修のご提案する際においても、この3つを中心にご提案することが多いです。各企業様が研修企画のご参考としてその概要を記載します。
1on1が機能する組織と機能しない組織の違い
3つあります。これらが、1on1研修を効果的に実施するポイントでもあります。
具体的には、「1on1の目的を経営と現場で共有しない」、「現場の管理職に1on1の進め方を伝えていない(現場に運用を丸投げ)」、「現場の管理職に1on1のスキル向上の機会を提供していない」、というものです。
様々な企業の人事担当者や管理職のみなさんとお話をしていると、以上の3点のいずれかで問題があることが多いです。
もし仮に1on1導入時にこれらに不十分な事項があったとしても、事後的に対応することでフォローも可能です。
以下、この3点に対応したポイントを記載します。
1on1の目的(経営と現場それぞれの観点から)
1on1の目的を経営と現場で共有するには、経営目線での目的、現場目線での目的をそれぞれしっかり言語化することが必要です。
そして、経営サイドとしては現場の管理職にその旨を伝える、そして、その際は会社目線だけでなく現場目線も意識して伝えることが大事です。この2つ両方を言語化して伝えることで、1on1を実施する動機づけができます。
その2つの目的を考える参考情報を以下記載します。
経営目線での1on1の目的
一言でいえば、自律型人材の育成です。先行きが不透明なVUCA時代には、答えがない問題にも組織として果敢に取り組んでいく必要があります。
ただし、自律型人材の育成を中心としつつも、キャリア支援など複数の目的から導入する企業も多いです。だからこそ、自社にとってなぜ1on1が必要か、自律型人材の育成だけにとらわれず、言語化することがとても大事です。
リクルート社が実施した1on1ミーティング導入の実態調査においても、自律型人材の育成が1番の理由ではあるものの、他にも様々な目的が挙げられています。
また、1on1が注目される背景に、内閣府令の改正により一部企業に義務付けられた人的資本の情報開示がある点も見逃せません。
その開示対象の1つが、企業の人材育成です。つまり、これからは、投資家が企業を比較する基準の1つに人材育成が加わるということです。そうなれば、他社と比較した人材戦略が求められます。
そのために1on1に注目されている側面もあります。現に有価証券報告書にて企業の人材育成として1on1を明記する事例も見受けられます。
なお、1on1も人的資本経営も大手企業に限定される話であると考える方もいるかもしれません。ただし、大手で動きが出てくれば、いずれ中小企業にも対応が求められます。実際に中小企業も1on1を導入する動きがあります。
この点、中小企業庁が公表している人材活用事例集でも1on1導入事例が複数紹介されています。
現場目線での1on1の目的
様々要因で、上司と部下のコミュニケーションが希薄になっている組織が増えています。そこから生じる弊害を防止するために1on1が導入されています。
具体的な1on1で狙う効果としては、上司と部下の信頼関係の構築、報連相の機会を作る、部下のモチベーション向上、部下の成長支援などです。
加えて、上司が部下への逆報連相のため、必要な情報を収集するためにも1on1は必要です。例えば、チームの方針を1人1人の部下に合わせて再度伝えることが挙げられます。また最近は、メンタルヘルスなどの管理も重要になってきているため、そのチェックおよびフォローするというものも1on1で狙う効果として大事です。
この1on1の効果を説明する理論としては、心理学用語のザイオンス効果が挙げられます。これは、接触頻度の多い物事に人は親しみを覚えるという考え方です。
この点、昔であれば、仕事以外でも社内の飲み会や社内行事等で上司と部下の接触頻度は自然と確保されていました。ただ今はそうはいかないため、意図的に上司と部下との接触頻度を確保する施策として1on1が導入される傾向があります。
1on1の効果的な進め方
1on1の進め方を考える際に大事なのは、1on1の前後も含めて1on1を設計することです。1on1が機能していない組織は、1on1をその前後を考慮せず、ぶつ切りに考えてしまっているケースが少なくありません。
1on1実施前のポイント
ここで特に大事なのは2つあります。1つ目は、1on1の実施目的の共有です。
現場の管理職のみなさんとお話をしていて一番抜け落ちていると感じるのがこの点です。経営がなぜ1on1を導入したかを理解する、そしてそれらを現場の社員にとって自分事化できる言葉に変換することが大事です。
例えば、「これからは自律型人材育成が大事だ」と部下に話しても伝わりません。これは経営目線の言葉だからです。1on1を実施することが、部下にとってどんなメリットがあるか、より具体的かつ上司自らの言葉で語ることが大事です。
2つ目は部下との信頼関係の構築です。それがあるからこそ、1on1が心理的安全性のある場となり、1on1が機能します。
よく1on1は部下にとって苦痛だと言われることが多くあります。これは、信頼関係なしで1on1を実施していることが原因です。場合によっては、かえって関係が悪くなることもあります。
とはいえ、完全に信頼関係構築ができている状態で1on1を実践できている組織もまた現実的にはまれでしょう。そこで、実際には信頼関係構築と1on1実践を同時並行で行っていけるように、部下への声掛けや雑談などのちょっとした会話も意識して実施していくことが大切です。
1on1実施中のポイント
まずは、部下に話をするテーマを決めてもらうことが必要です。しかし、部下から「話すことがない」と部下に言われて困ってしまう話をよく管理職のみなさんから伺います。この点は3つの時間軸と2つの事柄の合計6つから選択して話すとよいです。
内容によっては1on1実施中にテーマを決めるのではなく、事前に相談して決めておくとよいです。また当日に話すことがないと言われたときにテーマを提案できるよう、事前に候補を決めておくとよいでしょう。
次に、話をするときはコーチングとティーチングを使い分けながら部下とコミュニケーションをすることが大事です。
1on1でよくある誤解は、上司は部下とコーチングで関わらないといけないというものです。しかし、1on1はあくまで部下の成長支援の場です。必要な支援がティーチングであれば、それを実施することが大事です。
1on1実施後のポイント
1on1をいくらうまくやっても、その後に部下が適切に行動しなければ意味がありません。
実施後のフォロー等も合わせて行うことであえて時間をかけた1on1が効果を発揮していきます。特に以下の3点は重要です。
1on1の記録と振り返りをしているか?
1on1は継続的に実施するものです。だからこそ、記録を取って次回の1on1に備える必要があります。これはミーティングシートとしてフォーマットを作っておくと便利です。
加えて振り返りを実施することで、管理職自身の1on1スキルの向上に繋がります。最初から1on1が上手な方は少数派です。最初はうまくできなくても、何回も繰り返しながらスキルを向上させていけばいいわけです。
1on1で決めたことを部下が実際に実行しているか?
1on1実施前だけでなく、実施後の部下の観察が必要です。そして、声掛けやフォローが必要であれば適宜対応することが大事です。
また、こういった観察は部下にとって業務のモチベーションになりますし、いい意味でプレッシャーにも繋がります。
1on1実施後の部下の成長ポイントを把握しているか?
1on1実施後の観察では、やっているか、進んでいるか、だけでなく部下がどんな成長をしているかも把握しておきましょう。
他の社員ではなく過去の部下と比べた今の部下という意味での成長点です。こういった点は次回の1on1で個別にフィードバックする形で次回に生かすこともできます。
部下から要望されたことに対してアクションは取っているか?
部下の話の傾聴が大事だと頭の中で理解していても、その後にアクションを起こせない管理職がとても多いというのが私の実感です。
若手向けの研修を実施していても「上司は話は聞いてくれるが、結局動いてくれない」という話を伺うことがあります。また私が金融機関で仕事をしていた際も、同じようなケースが多々ありました。
部下からの要望を聞いたら、その後にどんなアクションを取ったか、部下に伝えることもとても大事です。要望通りの対応ができないケースでも同様です。話を聞いて終わりでは、信頼関係構築にとってマイナスになりかねません。
1on1で必要なスキル
1on1とセットで学習されるのが、コーチングです。コーチングは目標達成を支援するコミュニケーションスキルです。その特徴としては相手から引き出す関わりをする点が他のコミュニケーションスキルにはない特徴です。
1on1自体が部下から話をしてもらうことで成長支援をする場ですので、コーチングスキルは1on1実践の上で必要不可欠です。その中で特に大事なのは、コーチングの基本スキルの傾聴、承認、質問の3つです。
傾聴のポイント
相手の話を聴かなければ、部下の話に対して返答ができません。そのため傾聴がコーチングの中で核となるスキルです。
ここでのポイントは、「聞く」でなく「聴く」である点です。聞くは事柄ベースの内容を聞くこと、一方で聴くは相手の感情も含めて聴くことです。
要は共感ベースの傾聴が重要だということです。部下の話を聴く際は内容面に加え、感情面も大事にすることが一番のポイントです。
承認のポイント
承認のスキルは部下のモチベーション向上のために重要です。
承認はただ結果が出たときに褒めるよりも広い概念です。
朝会った際に挨拶をする、また時折感謝の言葉をかける、というのも承認の1つです。また、結果が出る過程の行動に焦点を当てて「最近、朝早いね」などと声をかけるのも承認の一種です。
この承認を部下に対して行う際には、普段から部下のことをよく観察していることが特に大事です。相手のことを普段から見ていないとかけにくい言葉が承認にはあります。
その意味で承認の裏にある言葉は「私はあなたのことを気にかけています」というメッセ―ジです。
質問のポイント
質問のスキルは部下の思考を掘り下げたり、視野を広げるために必要です。
形態としては5W1H1の質問が大事です。要は相手がはい、いいえ、以外の形で自由に回答できるような質問がベストです。そうすることで質問の効果が発揮できます。
質問が苦手であれば、いろんなところから参考になりそうな質問例を持ってきて質問集を作るとよいです。
ただし、暗記した内容をそのままコピーしてしゃべると不自然になる点は注意が必要です。
コーチングを1on1で活用する際の注意点
なお、1on1=コーチングと考えないように注意が必要です。このように考えてしまい、1on1が機能不全に陥ることがあります。
むしろ大事なのは、コーチングとティーチングを使い分けです。1on1では部下の成長支援の場なので、話を聴いて引き出すコーチングスキルが大切です。
しかし、そもそも引き出す知識やスキルが部下にない場合は、ティーチングをしなければなりません。
1on1に関して管理職のみなさんからよくいただく質問
以下の3点は研修現場で管理職のみなさんからよくご質問いただく内容です。
この点は、人事担当者様が管理職のみなさんとコミュニケーションを取る際にフォローをしておくことが望ましいです。
1on1の頻度は?
一般的に2週間もしくは1か月に1回というケースが多いです。時間に関しては、1回辺り15~30分という形態が多いです。
ただし、現場の状況は様々ですので、実施頻度や時間は柔軟に設計した方がうまくいきます。
ここで大事なのは頻度です。ザイオンス効果の観点から忙しい中でも短時間でいいので、ある程度の頻度をもって対応するのが一番のポイントです。
1on1を実践する時間がない
1on1をしっかりやろうとすれば、確かにまとまった時間が必要になり、抵抗を感じる管理職も少なくありません。
しかし、部下の成長支援以上に大事な仕事はほぼないはずです。1on1を実施できないほどの仕事を抱えているのであれば、他の業務を部下に任せたり、権限委譲するなどの対応が必要です。
また、1on1の全てを管理職自ら実施しなければならないわけではありません。右腕の部下も巻き込んで実施するなど、1on1実施の仕方もぜひ工夫してみてください。
1on1を実践して効果が見えにくい
適切に運営していれば、仕事で成果が出る前にチームの風通しがよくなる効果が出るはずです。
仕事の成果が出る前に何かチーム内で変化がないかチェックしてみるといいでしょう。
また、1on1の記録をしっかり取っていれば、成長していないと感じる部下であっても記録を見返すことで過去との成長ポイントが見つかることもあります。
まとめ
以上の3つが1on1を組織の浸透させるために大切です。1on1をテーマに研修を企画する際もこれらの観点から設計することをおすすめします。
ただし、企業によって現場の状況は様々な違いがあります。研修実施に関しては、この点をヒアリングさせていただき、その点を加味して研修を実施させていただきます。
研修をご検討の担当者様は以下からお気軽にお問い合わせください。ご参考にカリキュラム案を記載したリンク先も追記します。