昨今、様々な企業の経営戦略で重要性が増している従業員のエンゲージメント向上に関連して、従業員のライフプラン実現に注目する企業も増えています。
そのためには、社内の各種制度を制定するだけでなく、従業員が当該制度を周知できる機会およびライフプラン実現のために必要な考え方やスキルを身につける機会としての研修が重要です。
それがどういうことか説明するために、ライフプラン研修の内容およびライフプラン実現支援がエンゲージメント向上に繋がる理由および具体例を、以下記載します。
ライフプラン研修の内容
ライフプラン研修では、ライフプランニングの立て方(特に、住宅資金、教育資金、老後資金に関連した資金計画)およびライフプランを立てる上で必要なお金の知識(家計管理、資産運用 住宅、社会保障 保険など)について取り扱うことが一般的に多いです。
この資産運用では、会社として導入している確定拠出年金(企業型DC)に関する内容が含まれます。また、社会保障には公的年金、健康保険に加え、会社独自の福利厚生制度も含まれます。その意味で、ライフプラン研修は社内の各種制度を周知する機会にもなります。
また、キャリア自律の観点から、キャリアについてもライフプラン研修として取り扱うケースも増えている実感があります。私自身、お金と働き方を密接不可分と考えいますので、今後キャリア研修とライフプラン研修を一帯にしたコンテンツも充実させていきたいと考えています。
企業でライフプラン研修を実施する理由
企業でライフプラン研修を実施する理由は、前述の通り、従業員のエンゲージメント向上に繋がるからです。エンゲージメントが向上すれば、対内的には、従業員の生産性が向上しますし、離職防止にも繋がります。また、対外的には、企業イメージ向上に繋がります。
エンゲージメント向上の視点として、ウェルビーイングに焦点を当てた考え方が近年注目されています。ライフプラン研修がエンゲージメント向上に繋がる理由も、より具体的にはウェルビーイングの観点から説明できます。
この点、ウェルビーイングとは、身体的、精神的、社会的、経済的にも良好で満たされている状態のことを指します。日本語としてはやや抽象的かもしれません。
ただ、この言葉はより具体的な要素に分解するとイメージが湧きやすくなります。この点、米国のギャラップ社によると、それは、「キャリア」「ソーシャル」「フィナンシャル」「フィジカル」「コミュニティ」の5つです。それそれの具体例としては以下が考えられます。
1.キャリアウェルビーイング:仕事が良好な状態
⇒キャリア支援、評価制度の改善など
2.ソーシャルウェルビーイング:人間関係が良好である状態
⇒心理的安全性に関連した施策など
3.ファイナンシャルウェルビーイング:経済的に良い状態
⇒相応の報酬および資産形成の支援など
4.フィジカルウェルビーイング:身体的に良い状態
⇒長時間労働の是正、メンタルヘルス対策など
5.コミュニティウェルビーイング:所属している団体との関係が良好である状態
⇒社内行事の企画、社内での部活動の推進など
このように見てくると、従業員のライフプラン形成支援が、複数の観点からウェルビーイングに繋がることがわかります。
従業員のライフプラン実現支援がエンゲージメント向上の繋がる根拠および事例
ライフプラン実現支援がエンゲージメント向上に繋がる点に関しては、統計データからも確認できます。また、実際に企業のエンゲージメント向上策として様々な事例も出てきています。
従業員の金融教育と従業員のエンゲージメント向上に正の相関がある
MUFG資産形成研究所では、従業員の金融教育が従業員のエンゲージメント向上に繋がる旨の調査データを公表しています。
具体的には、金融教育の研修の参加経験者は金融リテラシーが高い従業員の割合が高いこと、金融リテラシーが高い従業員の方が資産形成・ライフプラン研修等の機会提供を重視していること、そして、金融リテラシーが高い従業員の方が勤務先での資産形成に関する研修開催で職場への愛着や貢献意欲が高まると回答する人が多いことがデータからわかっています。
従業員のライフプラン実現支援は人的資本経営の観点で着目する動きがある
またエンゲージメント向上は上場会社の一部に義務付けられた人的資本開示とも関連しています。その人的資本の充実の観点から、従業員のライフプラン実現に着目した施策を打ち出す企業が出てきています。
両立支援の観点(ANA)
ANAでは従業員のキャリア支援や生活と仕事との両立支援に取り組むことで、エンゲージメント向上を図っています。内容としては、理由を問わずに最長2年の休職が可能なサバティカル休暇制度を導入し、延べ390名が留学・介護・育児などで活用しています。加えて、最長2年間の不妊治療休職を導入し、仕事と不妊治療との両立支援をしています。
そして、この取り組みが認められ、人的資本経営の実践と開示促進を目的に設立された人的資本経営コンソーシアムが作成した好事例集でも当該制度は紹介されています。
これはまさに、従業員のライフプラン実現支援の観点からエンゲージメント向上を図る企業の施策の一例といえます。
ワークライフバランスの観点(ライオン)
ライオンでは、従業員のワークライフバランスの観点から、育児や介護などの従業員のライフステージに合ったライフプラン実現支援および各種人事制度導入に力を入れる旨を統合レポートにて明記しています。そして、この目的として、生産性向上に加え、従業員満足度の高さを狙っている旨の記載があります。
ウェルビーイングの観点(味の素)
味の素では、ウェルビーイングの一要素として資産形成を上げています。従業員のライフプラン実現を支援することが、組織としての資産としても蓄積される旨を明記している点に特徴があります。
ファイナンシャルウェルビーイングの観点(エンビプロ・ホールディングス)
エンビプロ・ホールディングスにおいては、従業員のライフプラン実現をファイナンシャル・ウェルビーイングの観点から推進していく旨、そのために資産形成に関連したセミナーを開催していく旨を明示しています。
研修機会提供の観点(リンテック)
リンテックでは、このライフプラン実現のために世代別にライフプラン研修やリタイアメントプラニング研修の実施に着眼しています。また、これからの実施ではなくすでに実施している旨を明記している点が特徴的です。
まとめ
このように、従業員のライフプラン実現支援はエンゲージメント向上に繋がります。そして、ライフプラン実現支援に取り組む企業が実際に増えています。
当事務所では、各企業のエンゲージメント向上の観点からライフプラン研修にも取り組んでいます。研修をご検討の人事担当者様へのご相談も承っていますので、お気軽に一度連絡ください。